ベティ・デイヴィス主演の『イヴの総て』を由来とする『ALL ABOUT EVE(オール・アバウト・イヴ)』というグループが1985年にデビューした。ポジティヴ・パンクなるちょっとしたブーム。バウハウスはその元祖、そのまた元祖にはデヴィッド・ボウイと遡る事も可能だと思う(ゴシック・ロック(GOTH)を遡れば)。当時のポジティヴ・パンクなるムーブメントに於いては、シスターズ・オブ・マーシーがダントツ!に好きだった。あの地を這う様なアンドリュー・エルドリッチのヴォーカルは唯一無二なお声だった。そして、そこから派生したのがミッションとゴースト・ダンス。オール・アバウト・イヴは、ミッションのリーダーであるウェイン・ハッセイのプロデュース作品ともあり一躍話題になって行った。X-マル・ドイッチュラントやジーン・ラブズ・ジザベル人脈からなるインディーズ時代のシングルは、荒削りながらも当時の「4AD」のアーティスト達に感じられた様なある種の耽美な世界を漂わせていた。勿論、すんなりと引き込まれてしまった。
それから、トントンとメジャー・デビュー。1stの『イヴの序曲』も好きだけれど、2ndの『スカーレット・アンド・アザー・ストーリーズ』はさらに好き。それは、ジュリアンヌの存在がさらに全面化し優しいアコースティック感覚、美しい旋律に溶け込むようなジュリアンヌの清楚でしっかりとしたヴォーカルが際立っていると思うから。彼らはブリティッシュ・ロックの正統派的な流れを汲んでいる。プロデュースがポール・サミュエル・スミス(元ヤードバーズ)とあり、ファン層は拡大されたようにも想う。
私にとって、ジュリアンヌ・リーガンはケイト・ブッシュとミレーヌ・ファルメールの中間に位置する様な存在なのだ。大好きな曲の一つである『DECEMBER』(アルバム『SCARLET AND OTHER STORIES』よりの2ndシングル)が決定的だった(あまりにも個人的な歓び!)。端正な美しい顔立ちを際立たせるかの様な赤い口元。60年代のサイケデリック、英国ならではのトラッド・フォークの芳香、枯葉の似合う妖精、ラファエル前派の絵画のモデルの様なジュリアンヌだと!
可憐なワンピースやロングスカート姿でギターやタンバリンを持つジュリアンヌはとても自然に映った。その様なスタイルの対極に位置する麗しの女性達も好きだったけれど(例えばマラリアのメンバー達の様な)。ジュリアンヌのお声には毒が無い。私は猛毒を持つような女性ヴォーカルにも惹かれるけれど、この正統さが大切なのだと思う、このグループには。奇を衒う事は何も無い。意外だったのはジュリアンヌの突然のポップなソロ・ユニット:MICE(マイス)の登場だろうか?ちょうど、VELVET MOONをオープンした頃の作品で贔屓目たっぷり!に大推薦していた。ブリット・ポップという括りでも好盤であったと思う。独特の個性的な歌唱法でもなく、決定的な声の個性でも無い。きっと、そこがジュリアンヌの魅力だと思う。優美なサウンド、彼らの音楽を聴いていると19世紀の英国にまで行ける。こんな美しい旋律と共にジュリアンヌのお声が時空を超える。
80年代に活躍したグループは随分消滅してしまったけれど、オール・アバウト・イヴは健在だ。一時、解散状態だったけれど復活してくれて嬉しい。私の好きな"英国"が詰まったグループであり、その歌姫であるジュリアンヌ・リーガンは憂愁の追憶でもある。
*上記の綴りは2004年9月5日のものです。
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