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2010年6月9日水曜日

『私の好きな歌・VOL.2』 BARBARA/NANTES 1965年

 バルバラ!孤高な気高き旋律。優雅な気品と激情を合わせ持つ神秘な声。初めて、この声に出会った作品にこの曲が入っていました。そして、歌詞の内容を後に知りいっそう好きになった曲です。今まで母から聞かされていたシャンソンというイメージとは赴きの違う、美しいピアノの調べとバルバラの吐息と声に圧倒されたものです。間違いなくこの曲は、シャンソンの名曲の一つとして永遠に語り継がれて行くものでしょう。ユダヤ人であるバルバラの歌手デビューは平坦な道のりではありませんでした。この曲を発表した時、既に30代半ば。60年代のバルバラの声はあまりにも繊細で艶があり、このような悲しくも美しい曲がよく似合います。この室内楽とでも言えそうな、バルバラならではのシャンソン世界を見事に表現していると思います。この曲と出会って10年余り経ち私の父も亡くなりました。今でもこの曲を聴くと悲しくなるのですが同時に私の心を落着かせてもくれます。このピアノとバルバラの声の震えだけで充分な比類なき名曲!私にとっての生涯大切な一曲だと思います。
~ バルバラ BARBARA / ナントに雨が降る NANTES ~




ナントに雨が降る 私を放ってほしい
ナントの空は私の心を悲しくしてしまう
ちょうど一年前の そんな朝
ナントの街はやはりどんよりとして 私が駅から出た時
今まできたことのなかった街は 私にとっては見知らぬ街
メッセージが来なければ 旅行などしなかったでしょう
"マダム、グランジュ・オー・ルー通り25番地へ お越し下さい
急いで!希望はあまりありません 彼は最期の時に あなたに会いたいといいました"
長い長い放浪の後 やっと彼は私の心の中へ戻ってき
彼の叫びは沈黙を破り... 彼が去ってしまってから 
長い間、私はこの放浪者、この不明者を 待っていた
ああついに彼は私のところへ戻ってきた 
グランジュ・オー・ルー通り25番地 
私はあの出会いをなつかしく思い出し
廊下の奥にあったこの部屋を 思い出の中に深く刻み込んだ 
私が行くと、暖炉のそばに座っていた 4人の男が立ち上がり 
部屋の明かりは寒くて白く 彼等は晴れ着を着ていた 
その見知らぬ人たちに 何も質問せず 何も言わず、ただ彼等をみただけで 
私はすでにもう遅すぎたことが解った それでも私はそこにいた 
グランジュ・オー・ルー通り25番地に 
彼はもう決して私に会うことなく すでにこの世を去っていた 
さあこれがあなたの知っている物語
彼はある晩戻ってきて それが彼の最後の旅 最後の岸辺になってしまった  
彼は死ぬ前に 私の微笑で暖まりたがっていた 
けれどその夜のうちにこの世を 去ってしまった彼 
別れの言葉も"ジュ・テーム"もいわないで...
海に続く道にある 石の庭に横たわって 安らかに眠ることを祈ります 
私は彼をバラの花の下に横たえた 父よ、我が父よ...
ナントに雨が降る そして私は思い出す 
ナントの空は 私の心を悲しくしてしまう...

※冊子『BRIGITTE 01号』より。

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