鏡/ZERKALO
1974年・ソビエト映画
監督:アンドレイ・タルコフスキー 脚本:アンドレイ・タルコフスキー、アレクサンドル・ミシャーリン 撮影:ゲオルギー・レルベルグ 音楽:エドゥアルド・アルテミエフ
出演:マルガリータ・テレホワ、オレグ・ヤンコフスキー
基本的にタルコフスキー作品が好きな私。敢えて「BRIGITTE」で選ぶのはその作品の中の女性像に惹かれる、あるいは印象強く残っている場面...今回はそういう意味で「鏡」(長編としては第4作目)を選んでみました。この作品はタルコフスキーの少年時代の回想から現在までの時空間を自由に眩暈を伴う様な美しい描写で描いて行く。もっと観るとまだ見えないものが見えて来るだろう。スペイン戦争、第2次世界大戦、 中国文化革命などの歴史を読み解かなくてはならないくらい、心理的な読みは難解な部分が多い。私はこの映画を6回くらい観たくらい。観ているうちに、歳を重ねるうちに理解出来る事が増えて行く。ただ、大好きな場面は初めて観た時のぼんやりとした「綺麗だなぁ~」「悲しくて美しい」と感じた場面。それは変わらないので不思議なくらい。元来、美しい映像を眺めている事が好きだからかもしれません。
主演のマルガリータ・テレホワは母と妻の二役を見事に演じ分けています。忘れら れない大好きな場面は、母役のマルガリータが盥で髪を洗うシーン。したたる濡れた髪と緩やかな動き(スローモーション的)はハッとする程の美しさでした。鏡という存在は過去と現在、夢と幻想、実像と虚像のどちらをも観る者に投げかけてくるには最適だったのでしょうか?タルコフスキーの詩的な印象の強いこの作品では、アルセニー・タルコフスキー(監督の父)による挿入詩があり、その朗読をするのはアンドレイ・タルコフスキー自身。監督自らの声で父の詩を朗読する事によって、この幻想的な世界に実を伴ったものを与える事が出来る様です。ラストのシーンで「心配ない...すべて 何とかなるものだ....」と作者の声、そして若い頃の父と母...そして母は子供を連れて歩いていく...涙ながらも微笑を帯びた母の顔が大写しになる...幼い頃の主人公が大声で叫ぶ...だんだんとそれらの姿は遠ざかって行く。この最後の声は叫び...全てこの少年の叫びによって行き交う時間、飛び交う幻想が美しい調和 を生みます。このラストでのマルガリータ・テレホワの強くて優しい涙を伴った微笑みも一生忘れられない場面なのです。
未来もここに現れる、光も永久に残るだろう
過ぎ去った日々を、私はこの肩に積み重ねて
深い時の森を抜けて来た
私は自らこの世紀を選ぶ.....
埃を巻き上げながら、我々が南を目指したとき、
草原は熱気で私と馬に襲いかかり
修道僧の様に死をもって脅かした
運命を鞍に結びつけ、私は今、
少年の様にあぶみに腰を浮かせ、未来を眺めよう
私の血が絶えようと、私は不死を求めない、
暖かで、確かな一隅を私は命にかえもしよう
この世のどこに連れてゆかれようと
- タルコフスキーの朗読する父の詩より抜粋 -
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