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2010年7月24日土曜日

『夢の宝石箱 VOL.4』 「サラ・ムーンの世界を初めて知った頃」 1986年


 サラ・ムーン(SARAH MOON)という女性写真家の作品を初めて知った(鑑賞した)のは1986年のこと。今も私は写真よりも古い絵画を鑑賞する方が遥かに好きなのだけれど、写真ならではの魅力というものがある。サラ・ムーンは殊にお気に入りの写真家のお一人。

 このお写真は中でも印象強く残っている作品のひとつで「DEAD ROSES」と題されたもの。薔薇のお花は大好きだし、また枯れてしまったお花にも美は残る。お花という生き物はなんて美しく儚い存在なのだろう!この枯れた薔薇はどんな色をしていたのだろうか。色褪せて枯れ朽ちてしまっても、まだ「美」を与えてくださる。この薔薇の鮮やかに咲き誇っていた時間を想う。過ぎ去りし夢の時間。

サラ・ムーンは確かにいつも同じ歌を歌っている。しかし、同じ歌になるように操作しているのではなく天性の問題なのだ。一定の音階の中で彼女の声は揺れ動き執拗に思い出と失恋の歌、過ぎゆく時とはかない幸福の哀歌を口ずさむ。サラは冬の朝の灰色の光と雨上がりの水のきらめきを歌う。また見捨てられた子供の恐れも歌う。ポール・ヴァレリーは美とは絶望するものであると言った。サラは美を歌うが希望をもつことに絶望はしない。
ロベール・デルピール
(フランス国立写真センター理事長)

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