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2010年6月10日木曜日

『夢の宝石箱 VOL.1』 「サラ・人形の家」 著:テリー・バーガー/デヴィッド・バーガー 写真:カレン・コショフ 1982年


 13才のお誕生日に主人公のサラは、誰からの贈り物か分らない大きな箱を開ける。開けてみると人形の家。ずっと住んでみたいと思っていた装飾の凝った作りのマンサード屋根のお屋敷。目覚めるとサラはお屋敷の中にいました。いつも夢みたお家だから中の事もよく知っていました。ただ西側の棟の鍵のかかったドアの向こうに何があるのか、それだけは知らなかったのです。居るはずの召使い達も庭師も先生の姿もいっこうに見あたりません。サラはその鍵のかかったドアの向こうに全てがあることを知っていました。夕刻になって広い食卓にはたったひとり。バースデイ・ケーキとプレゼントがあります。プレゼントを開けてみると見覚えのある鍵が入っていました。サラはその鍵を持って急いでドアの中に入って行きました。そこには弾き慣れたピアノもあるし、先生も召使い達もいます。思ったとおりです。朝方、サラのおかあさんは売り払ってないハズのピアノの音に目覚め、その音がサラの部屋から聴こえてくるので入ってみると知らない人形の家の中から音がします。中を覗いてみるとサラが小さな声で「あら、おかあさんね。今日からわたし、ここで暮らすことにしたの。心配しないで。ジョージもブラウディさんも、セルマ先生も、みんなとってもよくしてくれるから。」

 このサラの言葉でこの本は終わります。読んでいた私はサラのずっと夢みた暮らしが実現したものなのか?まだ目覚めぬ夢のお話なのか?はたまた...等と色々な想像が出来るのです。ただ、このお話はあまりにも私の少女時代と重なり合い、不思議な既視感に胸を躍らせてくれるものでした。幼い頃は夢の世界が現実に成り得ると信じてしまうことがよくあります。何も懐疑せずに。男の子の世界にも違う形でこのような想い出があるのでしょうね。女の子なら誰でも強弱の差はあれど、この感覚は憶えのあるものではないでしょうか?私はとってもお人形が大好きで中学生になってもまだ一緒に遊んでいたもので、従姉妹にあげなければならなくなりました。ところが、お人形達は私にとって今でも大切なお友だち。ある途轍もない寂しさと恐怖心が襲って来た日がありました。私は何も迷わずにお人形を買いに行きました。あんなに仲良しだったお友だちを見捨てた時期を償うかのように、それからは大切に一緒に居ます。

 シルヴィー・ヴァルタンが歌った大好きな曲『JOLIE PUPEE - きれいなお人形』を思い出します。

 女の子が大きくなってしまった為に、部屋の片隅に置き捨てられてしまった。きれいなお人形が、どうして自分を捨てたのかと非難をするのに対して、娘は、もう自分には恋人ができてお人形と遊ぶには大きくなりすぎてしまったのです。
 私をうらんだり、いたずらに悲しんだりせずに、きれいなお人形の運命を受け入れて、おもちゃの王国におかえりなさい。

 ・・・おもちゃの王国にサラは行ってしまったのかもしれません。

 この本は英文と和文で書かれ、写真(挿絵のように)が付いています。カレン・コショフなる人の写真がまた、不思議な魅力でもあります。少女サラはどう観ても13才になったばかりの女の子。でも、時折見せる表情は悲しみと警告をも感じさせるもの。それは、サラがお人形に同化している時なのかもしれません。今で言うゴシック・ロリィタな雰囲気も漂う個性的な写真。文章と同等にこれらの写真は私の心を惹きつけます。やや風変わりな著書ではありますが、どこかの古本屋さんで見つけることがありましたらそお~っと、覗いてみてください。

 2002年・春 冊子『BRIGITTE 01号』より

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