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2010年6月19日土曜日

『エム・バタフライ』 デヴィッド・クローネンバーグ監督 1993年


エム・バタフライ:M. BUTTERFLY
1993年・アメリカ映画
監督:デヴィッド・クローネンバーグ 脚本:デヴィッド・ヘンリー・ホアン
撮影:ピーター・サシツキー 衣装デザイン:デニース・クローネンバーグ 
音楽:ハワード・ショア
出演:ジェレミー・アイアンズ、ジョン・ローン、バルバラ・スコヴァ、イアン・リチャードソン、アナベル・レヴェントン、シズコ・ホシ

 この作品は公開当時から何度観ているだろうか。監督はカナダの奇才!デヴィッド・クローネンバーグで、主演はジェレミー・アイアンズ。このコンビは80年代には『戦慄の絆』でも名コンビぶりを発揮していた。オスカー受賞後もアイアンズは色んな役柄に挑戦し続けている。しかし、このような崩れゆく悲哀、憑かれた知的な役柄をさせると右に出る者はいない!と評される英国を代表する演技派であり、国際俳優としても名優のお一人として今なお第一線で映画と舞台共に活躍されている。ジョン・ローンの女装という事でも当時話題になった。ジョン・ローンの女装は個人的には好みではないけれど、長身のアイアンズと小柄なジョン・ローンの共演は興味があった。それにしても、この作品でもクローネンバーグの世界炸裂!演出の突出した秀逸さ、そして、ジェレミー・アイアンズの演技の素晴らしさに尽きるように思う。実在のお話を基に、デヴィッド・ヘンリー・ホァングの原作をクローネンバーグが脚色したもの。舞台劇として先に上演され映画化の運びとなった。


 フランス大使館の外交官ルネ・ガリマールが中国人女優のソン・リリンに惹かれて行く。プッチーニの『蝶々夫人』。ガリマールには美しい妻(バルバラ・スコヴァ)がいるが、ソンを一度も男性とは疑わずに女性として魅せられて恋に堕ちる。ソンは当局の任務を受けたスパイ。ガリマールは奥ゆかしい東洋人女性を純粋に愛し続けた。後半からの展開、さらに裁判にかけられ受刑者となるガリマール。「私はルネ・ガリマール、またの名をマダム・バタフライ。」蝶々夫人はソンではなくガリマールであったという、大きな錯誤、逆転する世界。もうクローネンバーグ&アイアンズならではの美学に花散る。「私は、男が作り出した女を愛した男だ。私はそのまま想像の世界にとどまる。私は想像力そのものなのだ。」とガリマールは顔に粉化粧をし紅を塗り、蝶々夫人を演じながらガラスの破片で首の静脈を切り自決する。現実と幻想を飛び越えた狂気の最期。壮絶さと醜悪さの混在する死に至る美しき男の美学!なんたる愛のロマンか!!

 しつこいようだけれど、アイアンズの存在と繊細な演技力、クローネンバーグの手腕が映像をグイグイと美しく破滅に向かわせる。80年代、90年代にこのコンビで名作を作り上げた。どちらのファンでもある私はまたもう一度、美中年(美老年)のアイアンズのクローネンバーグ作品を観たいと熱望している。

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