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2010年6月16日水曜日

『夢の宝石箱 VOL.2』 「マリアンヌの夢」 著:キャサリン・ストー 1958年


 イギリス・ロンドン出身(1913年生まれ)の作家であり精神科医でもあるキャサリン・ストー(CATHERINE STORR)は児童文学を数多く書かれている。その中でまったく異色の作風として印象深く残っている、大好きな作品である『マリアンヌの夢』(1958年)のご本のこと。独特の「心理ファンタジー」と称される代表作が『マリアンヌの夢』だと想う。他にも『かしこいポリーとまぬけなおおかみ(ポリーとはらぺこおおかみ)』(1955年)や『ルーファス』(1969年)も面白い。
 
 このお話の主人公である少女マリアンヌは10歳。お誕生日を迎える前に病気で入院してしまうことになる。9週間もの間外出できない。ある日、ひおばあちゃんの裁縫箱から鉛筆を見つけ絵を描き始める。家を描くとそれが夢の中に現れる。男の子マークを描くと彼も夢に...。けれど、その自分で描いた家に入りたくても入れない。また、そのマークという男の子は現実に病気で外にでることができない。目のある岩(石)が不気味な存在で怖い。この夢の中のマークというのは実は病気の少女マリアンヌ自身である。現実の不自由さや鬱憤を投影しているのだろう。キャサリン・ストーはこうした作品をいくつか書かれていて、それらは「心理ファンタジー」と称されるもの。とても素晴らしい!
 
 『マリアンヌの夢』は児童文学でもあるけれど、少年少女たちにだけに向けられて書かれたものではない。「児童文学」とか「ファンタジー」というカテゴリーすら曖昧だし読む者の感性に大きく委ねられるもの。私は色んな文学が好きなのだけれど、とりわけ主人公が少女だと単純に心が嬉々とするし、少年でも気になるようになっている。でも、登場人物が魅力的ならその作品に惹き込まれて行く。なんとなく自分で気付いてきたことは、やはり時空を超えたお話などの時間軸が自在に揺れ動く作風には弱いらしい。広義なジャンルだと「SF」というのかもしれないけれど、メカニックなものが主導権を握るものよりも、登場人物たちの心の動きや成長の様子などが繊細に描かれているものに心が動くことの方が断然多いし、好き。作者自身の体験や生活などが作品に反映されることも多々ある。この『マリアンヌの夢』も作者であるキャサリン・ストーご自身と大きく関係しているのだと以下のように語っておられます。
長い間、私は、自分の子供っぽさを認めようとはしませんでした。けれども、自分の作品のなかで、いちばんよく書けたものが、私の子どものために書いたものではなく、自分自身のために書いたものであることは知っていました。ウィリアム・メインは、だれのために作品を書くのかと問われたとき『かつての私だった子どものために』と答えました。これは、多くの子どものための作家に通じる真実だと思います。しかし、今もなお子どもである自分のために書くことも真実だと私は思っています。
『とげのあるパラダイス 現代英米児童文学作家の発言』 エドワード・ブリッシェン編 より

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